アメリカの映画業界が1年に1度最優秀作品を選ぶアカデミー賞。今年2月22日の授賞式では2014年のベスト・ドキュメンタリー賞として、元NSA契約業者職員だったエドワード・スノウデンに密着取材した作品「Citizenfour」が選ばれた。監督のローラ・ポイトラスはアメリカ人映像作家だが今はベルリンに住んでいる。この映画は、スノウデンのNSA内部告発を主なストーリーとして組み立てられているが、スノウデン以前にNSAを内部告発した元NSA職員ウィリアム・ビニーの発言も重用するなど、他の内部告発者の動きにも比重を掛けている。そして節々に画面に現れる「For Your Consideration」の文字が視聴者に疑問を持つことを投げかける。
この映画はアカデミー賞以前にすでにBAFTAアワードなど多数の賞を受けていた。サウンドトラックはナイン・インチ・ネイルズの「Ghosts I-IV」からクリエイティブコモンズ・ライセンスの音源が使われ緊張感を醸し出している。またエグゼクティブ・プロデューサーのリストには、「セックスと嘘とビデオテープ」「エリン・ブロコビッチ」「オーシャンズ」などの監督スティーブン・ソダーバーグも名前がある。
https://citizenfourfilm.com/cast-crew
https://citizenfourfilm.com/cast-crew
Citizenfourとは、スノウデンが初めてローラ・ポイトラスにコンタクトした際に使用したコードネームのことだ。オープニングは、スノウデンからの初めてのメールの朗読から始まる。同時にテキストで、ポイトラスが2006年にイラク侵略戦争のドキュメンタリーを作り始めた頃からアメリカ出入国の際に執拗な尋問に遭い始めたために、次作のグゥアンタナモ刑務所の作品などの撮影素材を守るためにベルリンに移住したことが明かされる。この映画では、背景解説のテキストやスノウデンとのメッセージのやりとりの朗読の多用が緊張感を高めている。映像も建設中のNSAデータセンターやアメリカ議会でのNSA長官の尋問などが背景を示す。
そして香港でのスノウデンとのコンタクトに話は進む。2013年6月3日月曜から1日づつ進むホテルの密室でのスノウデンへのグレン・グリーンウォルドによるインタビューとその記事の発表によって日毎に進む事態、日に日に深まるカミングアウトを決意したスノウデン自身の神経質さの描写は、これが現実に起きたという事実の重苦しさから逃げられない。
「Citizenfour」1時間53分の前半2/3ほどは香港でのスノウデンのインタビューに時間が割かれているが、後半になるとスノウデンの暴露のインパクトと波及事件が多数盛り込まれる。特に、スノウデン暴露記事の急先鋒として報道したイギリスのThe Guardian紙のオフィスへ英諜報機関GCHQの職員が現れ、スノウデンから受け取ったファイルの提供を強要したことから、拒否したThe Guardian編集部がファイルを保持していたPCとそのハードディスクを破壊した場面も含まれている。
しかし一番戦慄するのは最後の10分間だろう。ここで新たなNSA内部告発者が現れたことが明かされるからだ。グリーンウォルドとポイトラスはモスクワのスノウデンを訪ねて、この新たなNSA内部告発者について相談するが、この新たな人物がグリーンウォルド達に持ち込んだ情報の危険性はスノウデンが呆れるほどなのだ。クレムリンの見える1室で行われたミーティングは盗聴を避けるために主な情報は筆談で為され、大部分の手書きメモは映されないが幾つかはフォーカスが合わされて撮影されている。中でも意思決定チェーンを説明するメモの一番上に書かれた「POTUS」の文字ははっきりと読める。(POTUS: President Of The United States の略)
レビュー「NSA告発を描いた話題の映画「CitizenFour」レビュー:スパイ行為の暴露を語るスノーデン氏の実の姿」
「Citizenfour」は日本でもGAGAの配給で公開が予定されている。(ただし多数の暗号技術用語や諜報機関用語などが上手く翻訳されるかが心配だが)
「Citizenfour」には描かれなかったスノウデンの香港脱出についても、デンマークのDR-TVとドイツのNDRの合作でドキュメンタリーが作られている。脱出行動を共にしたWikileaksのサラ・ハリソンと後方支援したジュリアン・アサンジへのインタビューと、アメリカ側でスノウデンの対応に追われたホワイトハウスやNSAの様子を元NSA長官マイケル・ヘイデンなどへのインタビューを対比しながら見せている。
「Snowden's Great Escape」
http://realscreen.com/2014/10/10/exclusive-ndr-dr-tv-prep-snowdens-great-escape/
http://realscreen.com/2014/10/10/exclusive-ndr-dr-tv-prep-snowdens-great-escape/
また2015年クリスマス公開を目指して、オリバー・ストーン監督のスノウデン伝記映画も制作が進んでいる。
3月3日に、スノウデンはアメリカへ戻ることも検討しているというスノウデンのロシア側弁護士の談話が発表されたが、オリバー・ストーン監督の映画はこのアナトリー・クチェリナ弁護士の出版したスノウデン本を基にしているという。
ローラ・ポイトラスのアカデミー賞受賞スピーチは以下のようなものだった。ここで「スノウデンが暴露したものはプライバシーへの脅威だけではなく、私たちのデモクラシーそれ自身への脅威だ」とポイトラスは述べているが、セキュリティとプライバシーを対立させる二元論ではなくデジタルネットワーク時代の民主主義が主題なのだ。このドキュメンタリーを2014年の最優秀作に選んだのはハリウッドにも民主主義の番人の良識があるということだろう。
Thank you so much to the Academy. I'd like to first thank the documentary community. It's an incredible joy to work among people who support each other so deeply, risk so much, and do such incredible work. We don't stand here alone. The work we do to (unveil?) what needs to be seen by the public is possible through the brave organizations that support us. We'd like to thank Radius, Participant, HBO, BritDoc, and the many, many, many organizations who had our back making this film.
The disclosures that Edward Snowden reveals don't only expose a threat to our privacy but to our democracy itself. When the most important decisions being made affecting all of us are made in secret, we lose our ability to check the powers that control. Thank you to Edward Snowden for his courage, and for the many other whistleblowers. And I share this with Glenn Greenwald and other journalists who are exposing truth.
https://www.eff.org/deeplinks/2015/02/laura-poitras-acceptance-speech-when-citizenfour-won-academy-award
https://www.eff.org/deeplinks/2015/02/laura-poitras-acceptance-speech-when-citizenfour-won-academy-award
受賞式ビデオ http://bit.ly/17YlrcT
「Citizenfour」はアカデミー賞発表後、アメリカのHBO、イギリスのChannel 4、スウェーデンなどでテレビでも放映されている。またiTuneからも視聴/購入できる。日本公開が待てない人は英語のみで良ければどれかで視ることができるかもしれない。 http://bit.ly/1Emtu0U
(update2)