アメリカでネットの中立性が実現されようとしている中、ヨーロッパの通信企業も利用者の信用を得ようと必死になっています。

バルセロナで開催されたMobile World Congressで、テレフォニカのセザール・アリエルタCEOは、「デジタルの信頼性」を促進させるような厳格な規則を求めました。また、ボーダフォンのビットリオ・コラオCEOは、基調演説の中でプライバシーとセキュリティの必要性を強調しました。ドイツ・テレコムのティム・ヘットゲスCEOもこれに同調し、「データプライバシーは極めて重要である」と述べています。

ヘットゲスCEOは次のように述べています。「ユーザの80%はデータのセキュリティとプライバシーについて懸念してはいるものの、「(使用許諾契約に)同意する」の画面では契約内容を読まずに、常に「同意する」をクリックしています」。これは、私たちが行ったある実験で判明した事実を反映しています。それは、ユーザが無料Wi-Fiを利用できるかわりに自分たちの第1子を引き渡すという交換条件を「小さな文字」で記載する実験でした。

利用者のデジタル・フリーダムのための闘いは、私たちエフセキュアが常に重視している問題であり、利用者の信頼を取り戻すために、データの不正な公開を取り締まる厳格な規則が必須であるという考えには当社も同感です。しかしながら、プライバシーという名目で、自由を制限するようなことは避けなければならないと考えています。

テレノールのCEO兼GSMAの会長であるフレデリック・バクサス氏は、複数のオンラインIDとパスワードを管理する際にユーザが直面している極めて本質的な問題点を指摘しています。同氏は、デジタルIDをSIMカードに紐づけることを提案しています。この夢の単一認証は、実務的には一見したところ開放的に映るかもしれません。しかし、連鎖認証には、最近明らかにされたSIMセキュリティの問題以上に、オンラインで享受できるメリット(自分のIDを定める権利、仕事と家庭の生活を区別する自由、各コミュニティに代替人物として参加できる自由など)を損なう可能性があります。

GSMAは、12社以上の通信事業者が採用している携帯電話接続型の単一認証システムを支持しており、このシステムには多くのユーザのネット生活を簡素化する可能性があります。しかし、それによって、ひとつのサイトで複数のメールアカウントやIDを持ちたいというユーザの欲求が満たされることはないでしょうし、デジタルIDが抱える難題が完全に解決されることもおそらくないでしょう。

一番の問題は、自分達がすでに渡してしまっているものが何であるかを、私たちの多くが認識していないことです。

古いことわざに「if it's free you are the product(無料であるなら、商品はあなた自身である)」というものがあります。これは、広告を見たり聞いたりするのと引き換えに無料コンテンツをやり取りして育った世代には安心できる方法でした。しかし、現在では広告の方が私たちを見ているのです。

エフセキュア セキュリティ研究所は、世界で最も人気の高いURLの半数以上がユーザから直接アクセスされていないことに気づきました。これらのURLは見たいと思ったサイトを開いたときに自動的にアクセスされ、そして私たちの行動を追跡するのに使われているのです。

従来の使用許諾契約というのは法律上の手続きであって、ユーザには何のメリットももたらしません。「私は使用許諾契約を読んで同意しました」というのは、インターネット上での最大の嘘だと、エフセキュアのミッコ・ヒッポネンはよく言います。プライバシーを尊重する世界の希望をかなえるなら、こうした習慣は変えていかなくてはなりません。

先進社会では、例えば市販の食品には、パッケージへの成分表示が義務付けられています。私たちは通常、その表示をすべて読むこともなければ、理解することもありません。しかし、食品が自分たちにどのような身体的影響をもたらすかを確認することができます。

同じように、プライバシー保護を目的として、データが特定のサイトやアプリによってどのように扱われるのかといった情報のほか、以下のような情報を提供してくれるものがあればどうでしょうか。

どのようなデータが収集されるのか。

データはそのサイト上だけで扱われるのか、それともweb上で追跡され続けるのか。

データはどのぐらいの期間保管されるのか。

データは誰と共有されるのか。


主な質問事項にシンプルに回答するだけです。これらはすべて、利用者のプライバシーを重視するという立場を明確にするためのものです。

通信事業者のほか、デジタル上の権利を気にかける人であれば、こうして強化された透明性とともに、公衆の安全という名目で暗号化を禁止または制限する取り組みについては細心の注意を払っていく必要があります。法を守る市民が自分たちのオンラインでの行動を誰にも見られないようにする権利というのは、民主主義の中核に関わる問題です。そして、その権利の存在を期待できないのであれば、世界のあらゆるプライバシーに関するイノベーションは無意味なものになるでしょう。

これからはユーザがネットにつながる理由、必要性、機会といったものが、かつてないほどに増えていく時代になります。ユーザが商品ではなく、ほかの何かを得られる機会を提供できるサービスこそが成功していくことでしょう。

追伸:エフセキュアはすでにこのData Transfer Declaration(データ転送宣言)といった文書により、シンプルでクリーンな文書公開に向けて動き始めています。これをお伝えするようミッケに念を押されていました。

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