2010年12月にジャーナリストのMatt Thompsonが予想した未来は、「自動的な音声転写が、高速かつ自由で適切になる」というものだった。同氏はtechnological singularity(技術的特異点)をもじって、このような未来を「Speakularity」と称した。
Thompsonの言葉を引用する。
「ジャーナリズム素材の大半は、口頭でのやり取りで構成される。電話での会話や、記者会見、会議などだ。ジャーナリズムにおけるもっとも重要な制作上の課題の1つは、ラジオ放送会社で働く人でなくても、こうした口頭でのやり取りを文字に変換することだ。これを元に原稿やニュース記事を紡ぎ出すためだ。」
「Speakularity後は、こうした素材がもっとたくさん利用できるようになるだろう。目の不自由な方が音声記録を利用しやすくなるし、音声記録を別の言語に翻訳する際にも役立つ。人目につかない街中のミーティングが録音され、自動的に転写される。インタビューがほぼ瞬時にQ&Aとして公開される。イベントを取材するジャーナリストは出来事を記録していくことよりも分析することに注意を集中できるだろう。」
「想像してほしい。もしこうした機能が市民に開かれたら。もしすべての専門家や政治家や政策通の放送された発言が、全部Googleで検索できるようになったら。」
しかしこうした機能は善良な市民にのみ開かれるわけではあるまい…。
Nautilusの9月3日号の記事にて、James Somersはこのようなアイデアに深く切り込み、問いかけている。Will recording every spoken word help or hurt us?(話し言葉を一言一句記録することは、我々に益をもたらすのか、害をもたらすのか?)
同氏の推測では近い将来、すべてのビジネス上のミーティングは「記録(the Record)」の一部として音声転写されることになる。
「我々が言うことの大半を録音し自動的に転写することが始まろうとしている。記憶の中から消えて無くなる代わりに、声に出して言った言葉がテキストとして固定され、『記録』となって参照、検索、発掘されるようになる。こうしたことは、意図と許可の標準的な組み合わせにより起こる。起こり得ることは起こるのだ。我々の想定よりも早く起こるだろう。」
「これは途方もないことを可能にする。自分のメールを検索する理由をすべて洗い出してみよう。突如として、自分自身の発言がまったく同様に検索できるようになるのだ。」
素晴らしいことのように聞こえる?早まってはいけない。
「すべてが記録される社会で生きるとは、どのようなものか(考えてみよう)。英国のSFシリーズ『Black Mirror』に、Googleグラス流に音声や動画をいつでも記録する世界を設定にしたエピソードがある。これはある種の地獄だ。」
地獄ね。まったくだよ。人々が許し、忘れることは、すでに困難になっている。喋った言葉が不滅となったときに、許し、忘れることの困難さを想像してほしい。
ただし、今すぐには過剰反応しないでおこう。
「このような天国と地獄の光景の間に、あり得そうな真理が存在する。『記録』のようなものが現れても、我々が生きて愛するという基本的な歩みが新たな形態になることはない。脳みそがスポンジに変わることもないし、我々が超人になることもない。我々はいつもの古臭くて退屈な自分たちであり続ける。時には率直で、また時には嘘をつく。そう、我々は新たな能力を手に入れる。しかし我々が求めるものは、我々ができることよりもゆっくりと変化するものだ。」
そうだ、そう願う。
CBCのSpark(番組名)でSomersにインタビューが行われている。
- In the future everything you say will be searchable(将来は発言したことがすべて検索可能になる)
Speakularity的なことは近づきつつあると、私は考える。もし、ビジネス上の会議を自動的に音声転写するサービスが利用可能になった時は、我々の中でもライフブロガーが使いたいもののように思われる。それを使いたいと望む人々がいれば、誰かがそれを構築するだろう。
そして、そのことで私はこの重要な疑問を考えるようになった。Speakularityは保護可能だろうか?
人々が企業戦略やその他の機密情報について、マイクが音を拾える範囲で無差別に議論することは、想像に難くない。どのみち人々はもう、そうしている(電話機だ)。幸運にも、個々人の電話機をハッキングすることは普通のことではなく、一般に高価なツールが要求される。
しかし、個人や法人、政府の発言について検索可能な音声が、クラウド上のどこかに存在すると想像してみてほしい。それは取られるためにそこにあるのだ。比較すると、昨今のデータ侵害はささいなことのように見える。