みなさん、こんにちは。Rakuten-CERTの福本です。
ちょっと前の話です。今年6月の韓国でのFISRTカンファレンスで、とある方と情報交換をしてある気づきを得たのですが、今日はその話をしたいと思います。

 近年、僕らはインターネットセキュリティ対策に関する業務よりも、サイバー犯罪対応の業務のウェイトの方が多くなっているという事実を真剣に考えないといけません。実際、楽天でもその傾向が顕著に出ています。昨年末の沖縄のCyber3 Conferenceでインターポールの中谷さんも仰ってましたが、犯罪がフィジカルからインターネットに大きくシフトしています。中谷さんいわく、イギリスの(物理的な)銀行強盗は1992年に800件ほどあったそうですが、2014年には88件に減少したとのことです。一方で金融被害は飛躍的に増えていると。命をかけて刃物や拳銃で銀行を襲うよりも、国をまたいだインターネット経由の犯罪行為(不正送金マルウェアとか)の方が犯罪者としてはより安全なわけですから。

 楽天も、これまでの常識を遥かに超える数、いわゆるリスト型アカウントハッキングによる不正ログイン試行を観測しており、そのため楽天では数年前にサイバー犯罪対策室を設置し、不正ログイン試行や不正利用モニタリング、そして警察への対応を強化していて、サイバー犯罪の犯人逮捕にも惜しみない協力をしています。サイバー犯罪担当の警察官の研修受け入れについても、来年も積極的に実施する予定です。これまでは犯人逮捕というアクションはあまり力を入れてこなかったのですが、今は事情が全く逆です。警察側もサイバー犯罪は無視する事が出来ないものとなりかなり力が入っています。では、犯罪の温床を叩く意味について、2014年11月の中継サーバー業者の逮捕後の楽天での不正ログイン試行の状況を見てみましょう。(すいません、実数は非公開で・・)

login

 実際、不正業者の逮捕後は攻撃は激減しました。

 インターネットサービス企業において、セキュリティ技術や対策プロセス、人材育成と教育、という基本的なアプローチだけではもはや守りきれなく、事後対応能力も高めなくてはなりません。(注:プロアクティブセキュリティはきちんとやるのは大前提で)CSIRTの活動を通じた外部組織とのインシデント対応力だけではなく、犯人を追いつめて犯罪行為を牽制する力も必要です。何もしなければ犯罪し放題ですから。ですので、渉外対応やスレットインテリジェンス、Fraud分析あたりはこれから重要なキーワードになると思います。ちなみにSGR2016ではそのあたりのお話をさせて頂きました。

 また、最近では楽天を装った偽サイトは6000件、楽天を装ったフィッシングメールもかなり増えています。これらは別に新しい攻撃というわけではなく昔からあるユーザーを狙った金銭目的のサイバー犯罪ですが、激しさを増しているところに違いがあります。既にやっているユーザーへの啓発や注意喚起だけでは限界があり、大事なユーザーをどう守っていくか、それが今後のインターネットサービスの発展にとって重要な事であり、また業界全体で取り組む必要がある大きな課題なのかなと思います。さらに言うとこれがIoTの発展に伴ってサイバー犯罪は大きな問題となるはずで(特にランサムウェアはお金になりそうでやばい)、犯罪者にやりたい放題されないよう、インターネットの向こう側にいる犯罪者と戦っていかないといけないと、僕は思うのです。